コラム
賃貸借に関する内容証明
賃貸借契約は、貸主が借主にある物を使用収益させ、借主がその対価として賃料を支払う合意により成立します。
賃貸借契約は、原則として書面がなくても双方の合意のみで成立します。
もっとも、契約書は契約内容を証する重要な書類として作成されるのが通常です。
賃貸借契約の期間
民法改正により賃貸借契約の期間は最長50年です(改正民法604条)。
期間の定めのない場合は、借地の場合は解約申入れの日から1年、借家の場合は解約申入れから3か月で終了します(民法617条1項)。
借地借家法上は、賃借物が土地か建物かで扱いは異なります。
民法と借地借家法の賃貸借契約の期間は下記の通りです。
最長期間 | 最短期間 | 期限の定めのない場合 | |
---|---|---|---|
改正民法 | 50年 | 制限なし | 土地1年、建物3か月 |
借地(借地借家法) | 制限なし 例外:定期借地権 | 30年 例外:定期借地権 | 30年 |
借家(借地借家法) | 制限なし 例外:定期借家権 | 制限なし 1年未満は制限なしとされる 例外:定期借家権 | 貸主が解除する場合、解約申入れから6か月+正当な自由 |
貸主の権利義務
1.使用収益させる義務
賃貸借契約は、貸主が借主にある物を使用収益させ、借主がその対価として賃料を支払うことを内容とします。
そのため、貸主が借主に目的物を使用収益させる義務は契約の基本的な義務です(民法601条)。
2.修繕義務
貸主は借主に対して使用収益させる義務を負うので、その使用収益に必要な範囲で修繕する義務を負います(民法606条1項)。
なお、通常の修繕義務を特約で排除することは可能です。
3.費用償還義務
費用が「必要費」(たとえば雨漏りの修繕費用等)の場合、貸主は借主が支出した時点で直ちに支払う義務を負います(民法608条1項)。
費用が「有益費」(たとえば私道の舗装費用等)の場合、貸主は契約終了時にその価格の増加が現存する限りにおいて、借主の支出した金額または増加額を自ら選択して支払う義務を負います(同2項本文、196条2項)。
借主が費用償還請求を行使できる期間は、目的物の返還の日から1年間に制限されています。(同法621条、600条)
借主の権利義務
1.使用収益権・用法遵守義務
借主の使用収益権の内容は、契約または目的物の性質によって決まります(民法616条、594条1項)。
用法遵守義務の内容も同様です。
2.通知義務
賃借している目的物が修繕を要し、または目的物につき権利を主張する者があるときは、借主は遅滞なく貸主に通知しなければなりません(民法615条)。
3.賃料支払義務
賃貸借契約は、貸主が使用収益をさせ、借主がその対価を支払うことを内容とします。
そのため、賃料を支払う義務は基本的な義務となります(民法601条)。
4.敷金返還請求権
敷金とは、借主が賃貸借契約に付随して負担する債務を担保するために貸主に交付される金銭です。
敷金によって担保される債務は契約成立時から契約終了後の目的物明渡時までに発生される債務とされ、敷金返還請求権を明渡時に発生します(改正民法622条の2第1項1号)。
なお、敷金について改正民法で明記されました。
5.保管義務・返還義務
借主は賃借目的物を善良な管理者としての注意をもって保管する義務を負います。
また、契約終了時には賃借目的物を返還する義務を負います(改正民法616条、597条1項)。
その際、借主は原状で返還するのが原則です。
6.修繕権(改正民法で新設)
改正民法では、以下の場合が両方該当する場合に、借主に修繕権があることが明記されました。
- 借主が貸主に対して修繕が必要である旨通知し、または貸主がその旨を知ったにもかかわらず、貸主が相当の期間内に必要な修繕しないとき。
- 急迫の事情があるとき
賃貸借契約の解除
賃貸借契約の解除の効力は遡らず、将来に向かって契約を消滅することになります(民法620条)。
不動産賃貸借の場合、借主に債務不履行があっただけではなく、当事者間の信頼関係破壊状態があることが解除事由となります。
具体的には、借主が賃料を1か月分滞納した場合、それは債務不履行ではありますが、それだけでは解除は認められない傾向にあります。
他方、借主が賃料を数か月以上(3か月以上が目安)滞納した場合には、当事者間の信頼関係が破壊されたものとされ、解除が認められる傾向があります。
賃借権の譲渡・転貸
賃借権の譲渡・転貸は貸主の承諾がなければできません(民法612条1項)。
これに違反して無断で第三者に賃借物を「使用又は収益させたとき」は解除することができます(同2項)。
ただし、前記のとおり信頼関係破壊の理論によって解除権は制限されます。
また、承諾のない無断での賃借権譲渡・転貸は解除事由になりますが(民法612条2項)、貸主に対する背信行為とはいえない事情があるときは解除が認められません。
なお、改正民法では、借主が適法に賃借物を転貸した場合には、貸主は、借主との間の賃借契約を合意解約したことをもって転借人に対抗することができないことが明記されました(改正民法613条3項)。
*参照:みらい総合法律事務所 編著 「内容証明作成のテクニック」