コラム

損害賠償請求に関する内容証明

 事故・事件と損害賠償請求 

私たちが、事故や事件に巻き込まれた場合には、生じた損害について、加害者に対して賠償請求することが多く、その根拠となるのが民法709条です。

民法709条は、「故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。

したがって、損害賠償を請求するには、請求する者が、

  1. 権利又は法律上保護される利益が存在したこと
  2. ①に対する侵害行為があったこと
  3. ②が故意または過失によること
  4. 損害が発生したこと
  5. ②と④との間に因果関係があること。

上記を立証する必要があります。

また、数人が共同して他人に損害を与えた場合には、各加害者が連帯して損害の全額について連帯責任を負います(民法719条1項)から、仮に一人の加害者が行方不明であっても、他の加害者に対し、損害の全額について賠償請求することができます。

 

 特殊な不法行為に基づく損害賠償請求 

民法は、不法行為について民法709条で一般原則を規定していますが、このほかにも、加害者以外の者が責任を負う類型として、以下の規定を置いています。

 

1.責任無能力者の監督義務者の責任(民法714条)

未成年者および精神の障害により責任能力を欠く状態にあった者は、損害賠償責任を負いません(民法712条、713条)。

責任能力とは、自己の行為の責任を弁識する能力を意味します。

責任能力の有無は、その者の年齢や環境等の事情から個別具体的に決定されますが、判例では11年の少年について責任能力を肯定した例や、12歳で責任能力を否定した例があり、一般的には10歳から12歳となると、責任能力を備えるといえます。

責任無能力者が損害賠償責任を負わない場合には、責任無能力者の監督義務者(未成年の場合の親権者や精神障害者の場合の成年後見人など)が損害賠償責任を負います(同法714条1項本文)から、被害者は、監督義務者に対して損害賠償請求をすることになります。

もっとも、監督義務者が義務を怠らなかった場合や、義務懈怠の有無にかかわらず損害が生じたような場合、監督義務者は責任を免れることができます(同ただし書)。

 

2.使用者責任(民法715条)

事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に与えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。

これを「使用者責任」といいます。

使用者責任は、使用者が被用者を使用することにより利益をあげているのであるから、被用者が事業の執行について他人に損害を与えたときはこれを賠償する義務があるとするのが公平の理念に適うことから認められる責任です。

使用者に対して損害賠償を請求する者は、使用関係の存在と、被用者が使用者の事業の執行について与えられた損害であることを立証しなければなりません。

 

3.土地工作物責任(民法717条)

土地の工作物が通常有すべき安全性を欠いていたことが原因で他人に損害を与えた場合は、土地工作物の占有者は、被害者に対して損害を賠償する責任を負います(民法717条1項)。

ただし、土地工作物の占有者は、損害発生を防止するために必要な注意をしていた場合には責任を負わず、第二次的に所有者が責任を負うことになります。

所有者の責任について免責規定はありませんので、無過失責任となります。

土地工作物の占有者または所有者に対し損害賠償請求をする者は、

  1. 土地工作物が通常有すべき安全性を欠いていたこと
  2. それによって損害が生じたこと

を立証しなければなりません。

 

4.動物の占有者の責任(民法718条)

動物が他人に損害を与えた場合は、その動物の占有者は、被害者に対して損害を賠償する責任を負います(民法718条1項)。

ただし、動物の種類や性質に従って相当の注意をもって管理をしたときには、責任を負いません。

ペットの飼い主などの動物の占有者に対し損害賠償請求をする者は、

  1. 請求される者が動物を占有していたこと
  2. その動物が被害者に対して損害を与えたこと

を立証しなければなりません。

 

 損害賠償の方法 

不法行為による損害賠償は、金銭賠償が原則です(民法722条1項)。

金銭賠償の例外として民法が規定しているのは、不法行為の内容が名誉棄損である場合に、被害者の請求によって謝罪広告等の名誉回復処分が認められるような場合(同法723条)のみです。

 

 過失相殺 

事件・事故について被害者側に過失がある場合には、裁判所がこれを考慮して損害賠償額を定めることができます(民法722条2項)ので、被害者が損害の全額の賠償を請求した場合に、加害者側からは被害者側の過失の根拠となる事実が主張されることがあります。

また、損害の拡大に被害者の心因的要因や従前から存在していた疾患が寄与していた場合にも、一定の割合で斟酌(しんしゃく)されることがあります。

 

 時効等 

不法行為に基づく損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が損害の発生と加害者を知った時から3年(ただし、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権は5年)経過したとき及び不法行為があった時から20年が経過した場合には消滅します(民法724条)ので、請求者は注意が必要です。

 

*参照:みらい総合法律事務所 編著 「内容証明作成のテクニック」